医薬保健学総合研究科
内科系医学領域
放射線科学

金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 内科系医学領域

放射線科学

Interventional radiology画像下治療

当教室は国内に血管造影法をいち早く取り入れ、肝癌に対する肝動脈化学塞栓療法を中心とするカテーテル治療の領域を開拓し、本邦におけるIVRの発展の歴史を創成期より担い、IVRの技術向上と普及に寄与してきました。既存の技術の洗練のみならず現在発展途上の新技術を積極的に取り入れ確実な医療へと発展させるため日々努力しております。現在では冠動脈疾患や脳血管内治療以外の全ての領域でのIVRを一手に引き受けており、金沢大学附属病院を活動拠点として、IVR技術の標準化を図り北陸地方を中心として地域医療に貢献しています。我々はIVRを通して病気から受ける様々なストレスから患者様を解放し「生活の質が豊かになる医療」をめざしています。

当教室では悪性腫瘍を中心とする腫瘍の制御、血管病変の制御、緩和療法、診断支援、外科手術支援など多岐にわたるIVRの全ての分野を血管系・非血管系を問わず網羅しております。これらを実際の臨床現場で日常的に実現するためには、各診療科との厚い信頼関係と緊密な連携が不可欠です。この体制は、当院のみならず関連病院を含めて広く浸透しています。

当院のクリーンルーム化された血管造影室には3台のフラットパネルDSA装置が配備され、内1台には64列MDCTを併設しIVR-CTシステムとして活用していましたが、2017年2月からIVR-CT装置が320列MDCTに更新され、より高度な診断/治療を実践しています。さらに麻酔器を常時設置し全身麻酔下のIVR施行を可能にしています。また2016年4月からは当院に待望のハイブリッド手術室が設置され、大動脈疾患を始めとする複雑な血管病変に対する高度なハイブリッド手術や、産婦人科疾患などの手術支援に活躍しており緊急時にもすばやく対応可能な体制になっています。

緊急要請に対応可能な体制を確立

外傷性出血や腫瘍破裂など緊急的にIVRが必要な状況においても即座に対応可能な体制を確立しており、また関連病院での緊急症例に対しても画像診断のみならずIVRの緊急対応を行っています。北陸地方の他大学の緊急要請に対しても援助を行った実績があります。 多種多様な病態に応じて様々な医療技術が開発され、低侵襲治療としてのIVR技術も年々複雑化していますが、多様化する病態に則した医療技術の投入が必要です。そのためには画像診断を中心とする病態の正確な理解が必要不可欠であり、われわれは短絡的にIVRを適用するのではなく、まずは病態解明に全力を尽くしております。その上で病態に則したIVR技術の最大限の有効活用を提案し慎重かつ確実なIVR技術を提供しています。

この思想が「生活の質が豊かになる医療」につながると信じております。

日本IVR学会に所属しております

我々が所属する日本IVR学会においては、2002年より認定専門医制度が発足し、現在までに全国で1100名以上の専門医が認定されています。当教室および関連病院においては約25名の専門医が所属しており、IVR専門医修練施設として金沢大学附属病院を始めとして富山県立中央病院、富山県厚生農業共同組合連合会高岡病院、市立砺波総合病院、石川県立中央病院、福井県済生会病院、福井県立病院が認定されています。

肝臓病に対する集学的治療

IVRによる腫瘍制御、特に肝腫瘍の病態解明と血管内治療はわれわれが開発し今やその技術が世界標準になっている領域です。慢性肝疾患、すなわち肝硬変や慢性肝炎などを背景として生じる様々な病態、特に肝細胞癌に対する集学的治療の中で、血管造影手技を駆使した肝細胞癌の精密な血行動態観察から多段階発癌の過程を明らかにし、病態に応じた血管内治療の選択、とりわけ肝動脈化学塞栓療法(Transcatheter Arterial ChemoEmbolization:TACE)の発展と普及に貢献してきました。さらに肝動注化学療法を積極的に施行し治療成績向上に寄与してまいりました。また画像診断による詳細な病態解析のもとに門脈圧亢進症に伴う胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)や部分脾動脈塞栓術(PSE)を行っています。安直に低侵襲治療に終始するだけではなく、まずは疾患の病態解明に力を注いでおり、病態に則した低侵襲治療の選択を推進しています。

大動脈ステントグラフト治療

大動脈疾患に対しては世界的なステントグラフト治療の台頭とともに本院でも臨床応用を1990年代に開始しました。金沢大学を中心に北陸地方に広く本治療を普及させ、大動脈疾患の治療成績向上に寄与してきました。当院で本治療が急速に発展してきた背景には放射線科と心臓血管外科との強力な共同体制の確立があり、大動脈疾患のみならず、心臓疾患や腹部内臓動脈領域、腸骨動脈領域、大静脈領域など多岐にわたる血管病変に対する血管内治療を施行しています。我々は現在の国内での治療水準を超えるレベルでの低侵襲治療の確立を目指しています。放射線科、心臓血管外科ともにステントグラフト治療の指導医を複数有し、緊急時のステントグラフト治療を随時施行可能な体制が整っており、さらに標準的なステントグラフト治療適応を越えた困難症例に対する特殊な治療戦略への挑戦も続けております。

悪性腫瘍を中心とする腫瘍に対するIVR

肝細胞癌に対する低侵襲治療以外にも多岐にわたる腫瘍IVRを展開しています。骨軟部腫瘍に対する動脈塞栓術や動注化学療法、ラジオ波焼灼術、経皮的椎体形成術、腫瘍生検、脊髄動静脈奇形治療など、整形外科領域の多くの症例に介入しています。また、耳鼻咽喉科と協力し咽頭癌や喉頭癌を始めとする頭頸部癌に対する放射線治療を行うとともに超選択的動注化学療法を1990年代に開始し、機能損失を伴わない根治治療を目指し良好な治療成績を挙げております。呼吸器外科や呼吸器内科との連携の元に、肺腫瘍に対するCTガイド下生検術や胸腔鏡下手術前CTガイド下VATSマーカー針留置術を日常的に施行しており、診断および手術支援に大きく貢献しています。

凍結治療

凍結療法とは

直径1.5mmほどの細い針を腫瘍内に挿入し、針の先端部を超低温にすることにより腫瘍を凍結してがん細胞を破壊する治療法です。RFAと同様に局所麻酔で体表から針を刺入して行うことができる低侵襲な治療で、入院期間が短く、全身麻酔や手術のリスクが高い患者様に対しても行うことができる他、術中の疼痛も殆どないという利点があります。

小径腎癌に対する凍結療法の導入

近年、小径腎癌に対する局所治療として、「凍結療法」が保険適応となっています。これは、RFAと同様、局所麻酔で体表から針を刺入して行うことができる低侵襲な治療ですが、腫瘍を凍結してがん細胞を破壊します。入院期間や治療効果などはRFAと大差ありません。これまで保険診療でありながら治療設備の普及がなかなか進まず、北陸地方でこの治療を受けることはできませんでした。

金沢大学附属病院では新たに凍結治療装置を導入し、2017年3月から小径腎癌に対する凍結療法を開始しております。

当院ではIVR-CT装置を使って施行しています。尖端を凍らせることができる特殊な凍結針を腎腫瘍に向かって刺しますが、1本の針で凍結させることができる範囲はある程度決まっているため、腫瘍を十分凍結範囲に内包できるようにするために複数本の凍結針を使う場合が多いです。アルゴンガスを用いて組織を凍らせますが、凍らせた範囲はCTやMRIで黒く見えるので(この黒い球状の所見はアイスボールと呼ばれています)、実際の現場で治療範囲がすぐ確認できるという利点があります。
最も多い合併症として治療後の出血(血尿など)がありますが、当院では予防策として術前に腎腫瘍に対し動脈塞栓術を併用しています。治療中および治療後のCTで腎腫瘍の中に非常に白い構造が含まれていますが、これは血管を詰める塞栓物質を含んだ油性造影剤が腫瘍内に留まっているためです。

日本IVR学会が発行しているパンフレットも御覧下さい。

ラジオ波焼灼療法

ラジオ波焼灼療法とは

直径1.2~1.5mmほどの電極針を腫瘍内に挿入し、高周波の電流を流すことによって熱を発生させ、腫瘍細胞を死滅させる治療法です。局所麻酔で体表から針を刺入して行うことができる低侵襲な治療で、入院期間が短く、全身麻酔や手術のリスクが高い患者様に対しても行うことができるという利点があります。

自由診療でラジオ波焼灼療法(RFA)を実施している腫瘍

腎癌

様々な理由により従来の外科的治療の適応とならない患者様がRFAの対象となります。T1a(4cm以下)に分類される腫瘍で、特に3cm以下、外方突出型のものがよい適応です。多くの場合、治療は1~2時間程度で終了し、治療後3~4日で退院となります。術後の腎機能の低下もごくわずかで、腎機能障害を有する患者様でも人工透析の導入を避けることができます。

肺癌

様々な理由により従来の外科的治療の適応とならない患者様がRFAの対象となります。個数が3~4個以内で、大きさが2~3cm以下の腫瘍が適応となります。転移を有する場合には適応とはなりません。治療は1~2時間程度で終了し、治療後3~4日で退院となります。

骨腫瘍

類骨骨腫は良性腫瘍ですが、痛みを伴うことが特徴の一つです。低侵襲なRFAにより劇的な除痛効果を得ることができます。若年者が罹患することが多く、RFAはよい治療選択肢となっています。
転移性骨腫瘍は激しい痛みを伴うことがありますが、薬物療法や放射線治療といった標準的な治療が奏功しない場合にRFAによって症状緩和をはかります。

保険適応について

本邦では、肝悪性腫瘍に対して保険適応が認められ、肝細胞癌の標準的治療法となっています。腎癌などのいくつかの腫瘍についても手術と遜色のない短期~中期成績が報告されていますが、今のところ肝悪性腫瘍以外での保険適応は認められていません。そのため、当院では肝臓以外の腫瘍については自由診療(全額自費負担)で治療を行っています。費用は40~50万円かかることが多いですが、入院中の処置や期間などによってかなりばらつきがあります。

診療実績表

頭頸部領域

手技 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
頭頸部腫瘍動注化学療法 64 32 23 48
その他 6 6 9 5
総数 70 38 32 53

胸部領域

手技 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
経皮的肺生検 79 72 69 99
VATSマーカー 30 31 34 34
TEVAR 38 29 26 25
BAE 11 18 22 12
その他 16 16 21 16
総数 174 166 172 186

腹部領域

手技 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
TACE 172 133 149 156
腹部緊急塞栓術 38 31 41 38
PTPE 6 8 5 14
その他塞栓術 31 9 46 25
肝動注リザーバー 31 10 18 6
EVAR 55 57 52 37
その他血管系 23 43 20 44
PTCD 21 30 49 27
PTAD 16 19 27 12
その他非血栓系 24 26 29 25
総数 417 366 436 384

生殖・泌尿器領域

手技 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
腎癌凍結療法 14 12 11 26
AVS 40 47 50 48
経皮的生検 14 9 14 25
産科出血 5 5 4 3
その他 19 23 19 36
総数 92 96 98 138

骨軟部・四肢領域

手技 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
骨軟部腫瘍塞栓術 20 37 29 21
経皮的生検 36 32 27 45
骨盤骨折塞栓術 3 4 10 8
腸骨動脈ステント・ステントグラフト 15 10 21 21
シャントPTA 41 30 49 64
その他 10 14 21 15
総数 125 127 157 174

合計

手技 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
全て 878 793 895 935